捨てられた仔犬の様な…

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今から少し前…。 あれは、11月の半ばのことだった。 いつものように、お店の戸締まりを、始めた私は、入り口の前に、うなだれて立っている男の人が一人いるのに気付いた。 「あのう…もうお店閉めるんですけど、内にご用ですか?」 「…ああ、そうですよね…もう、外、真っ暗ですものね。」 そう言った彼が、やっと、顔を上げた。 「…近藤さん?」 そこに立っていたのは、近藤敦士さん…内の店のお客様だった。 「どうされたんですか?」 「…すいません…こちらで、契約したもの…キャンセル…してもらえませんか…。」 近藤さんは、いきなり、ポロポロと涙を流しながら、そう言って、頭を深々と下げた…。 うわっ…どうしよう…。 さすがの私でも、いきなり、男の人に泣かれたら、動揺するわ…。 「…近藤さん、とにかく中に、入ってください。お話、聞きますから…。」 「…すいません。」 なんだか、憔悴しきった近藤さんを、来客用のソファーに案内して座らせる。 「ああ、みんな、帰っていいわよ。後は、やっとくから。」 みんな、近藤さんの姿を見て、心配そうな顔をしていた。 後をお願いしますと、口々に、言いながら、帰っていくみんなに、笑顔で、手を振った。 「また、明日ね。」 私は、近藤さんに、お茶を勧めながら、本題を切り出した。 「…あの…契約をキャンセルって、どう言うことでしょうか? プランの見直しですか? それとも…」 「…キャンセルとしか、僕は、言えません…。 結婚自体が、なくなってしまったんですから…。」 今の近藤さんは、痛々しかった…。
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