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今は静かで瀞のようなこの波間は、やがて素顔を変えて豹変し、逆鱗を起こすのだ。
人間の全身を飲み込んで、飲み下したときにやっと喜ばしい声を出して、灼熱の陽光にまどろみながら、その全身を淡く抱き締める。
もう何処へにも寄越しはせぬと、全身を包みながら俯瞰して凝視する。
――――と、私の視線の最果てに、何か黒い泥のような難波の風の漂流に、境界の線に、何か白いものが現れたように見えた。
それは月でもなく陽でもない、海の表面に突起を起こして、胸を仰け反らしていた。
内臓を晒すように全身を現わしたそれは、風のような声を出して何か叫んでいる。
私がそれが何を云っているのか聞き取ろうとする矢先に、怒涛の津波が黒い壁を作って私の方にその手を伸ばしてきた。
もう何処へにも寄越しはせぬと、全身を包みながら俯瞰して凝視しているその白いものは、やっと笑っていた。
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