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台所で立ったまま、椿の顔を見つめた。不思議そうに私の様子を伺う椿。
背中に変な冷や汗が流れる。
仕事について聞くだけなのに
『今日、持って帰ってきた段ボールてさ…その…大学で何かあったの?』
椿をマトモに見れず、目線を下に向けた。聞けたけど見れない。
しかし、反応が気になる。
「今日は勘が冴えているのね。話があるからそこに座って」
リビングのテーブルに誘導され、椿と向かい合わせになった。バスローブ姿がしっかりと視界に入る。
真面目な話なのに変なことを考えてしまう…
こんな自分が恥ずかしい。
アナログ時計の秒心音が響く。
軽いため息を吐いた椿は、ゆっくりと口を開いた。
「実は大学の研究室を辞めてきたの。母の会社に就職することが決まって…」
『えっ?母の会社?』
大学を辞めた=大学で椿に会えない。
母の会社=社長令嬢?
目を見開くことしか出来ない。
大学で何かあった事は予測出来ていたけど、辞めたことまで考えつかなかった。
「大学に入る前から、母と約束していたのよ。色々な経験を積んでから、会社で勤めることをね」
『じゃあ、行く行くは社長になる予定?』
社長令嬢なんだから社長になる可能性が高い。
そしたら、もっともっと遠い存在になってしまう…一緒にいることも…
色々と考えてしまい、椿に対しての返答が出来ない。
椿は立ち上がり、私の横に来て、静かに抱き締めてくれた。
バスローブからはシャンプーの良い匂いが香る。
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