15章

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「どうして、一人の人に縛られたくないの?毎晩、相手が変わってたら大変そうね」 質問がストレートすぎる。 一番、いたいところを突くわね。 私は椿姫に対して、自然とその理由を話した。 「私ねぇ、実はさー愛人の子供なのよ。お父さんが当時、キャバクラをしていた母と関係を持って、私が産まれたわけ。本妻の子供達は好き勝手な子ばかりでね。お父さんの跡を誰も継ぎたくないみたいだから私が継ぐことなったの」 椿姫は何も言わずに、ただ頷いていた。その表情は真剣そのもの。 だから、言葉が自然に出てくる。 「嫌味はたくさん言われたけど、そんなことはどうでも良かったわ。一人の人間を愛するって、面倒くさいということは小さい頃から当たり前って思ってた。縛られるのは息が詰まるからイヤ。だから、毎晩違う相手を好むのよ」 こんな話、生まれて初めてしたような気がする。 愛人の子供だから、その遺伝子のせいにしてるのも頭では分かっている。 それに立ち向かわない自分。 分かってるのよ…逃げるって… 頭にソッと暖かい感触を感じた。 目線を上にあげると、整った顔が真剣な眼差しで見てくる。 「愛人の子供だから父親と同じことをする。でもそれって、貴女なの?貴女という個性が死んでいるわよ。素直になれば楽になるはず。私が言えたことではないけど…」 真剣な瞳の奥には、悲しい顔をする椿姫。椿姫も色んな想いを抱えている。だけど、地道に戦っている。 私は……。 「生きるって難しいー。でも生きないと何も変わらないわね。椿姫、私みたいのも変われるかしら?」 椿姫は優しい眼差しで私を見つめる。 口角を静かに上げて頷く。 人に話すのって、案外良いと思った瞬間だった。 「人間、やってみないと分からないでしょ?」 「椿姫ー、上から目線じゃんー。」 「貴女が自分から振ってきた話題なんだから、責任持ちなさい。」 「さらに上から目線!!これは参ったわねー」 私は椿姫の肩に寄りかかり、夜空を眺めた。深いため息をはいて、私と一緒に夜空を見る椿姫。 「私達って、友達というより戦友じゃないー?」 「だから、陽子と一緒にされたらこの世の恥って何回言わせるの?全く…」 「胸を抉るようなことばかり言うのねー。まぁ~いいわよ。お互いに頑張りましょ!」 私達は静かに笑った。 満月の夏の夜空を見ながら、想い人の顔を思い浮かべた。
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