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私は不思議になり、問いかけようとしたら、また抱き締められた。
「貴女、今泣いてるわよ…。」
耳元で椿姫の甘い声が響く。
泣いている?
自分でも気づかないくらい涙をコントロール出来ない。
「つばき……わたし…わたしねぇ…」
子供のように泣いている。
言葉がうまく出てこない。
椿姫は私の背中をゆっくりと擦った。子供をあやすように。
「無理に言わなくていいわ。大丈夫よ、大丈夫だから」
涼子とは違う落ち着いた声。
暖かい胸元、髪から放たれる良い香り、暖かい手。
「うっ…………」
私はただただ泣いた。
心の何が空っぽになった気分。
初めて、人のために自分を変えようとした。
人は簡単に変われない。
むしろ、変わらない。
私は………………
バチッ!
心の奥深くにあるモノが弾けた。暖かいモノではない、冷たくて黒いモノ。
椿姫の肩を両手で押さえて、少し距離をとった。私の行動に椿姫は、驚いた表情になり、顔を覗き込んでくる。
「本当に無理に……」
またもや、私は椿姫の言葉を遮った。中指を椿姫の唇に置いて、口角を少し挙げた。
「椿、人って簡単には変われないのね…涼子に振られても、今まで通りに接するわ。振られても気持ちまで、抑えろなんていう法律はないでしょ?」
自分でも驚くように淡々と話している。立ち上がり、ホテルの窓の方に移動する。
夜景の見ながら、椿姫にまた語りかける。
「貴女と私は一緒だよ。想いがあるのに相手に届かない。とても綺麗な感情だけど、残酷だよね。だからさ…椿。」
椿姫も窓の方に移動してきて、私の後ろに立っている。
振り返えて椿姫と向かい合わせになり、近づく。
そして、椿姫の首に自分の両腕を巻き付ける。
驚いた表情で私を見る椿姫。
「悪い冗談はよしなさい。話ならいくらでも聞くから離れ…」
「離れないわよ、椿姫。私達って似た者同士じゃない?相手へ想いが届かないところがね。寂しくない?」
私は椿姫の首筋に顔を埋めて話した。
黒く練っとりしたモノが私の心を覆っていく。
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