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「分かったわ。そういうことは一切しないから。身体を休めるためにも、中に入って」
皐は少し警戒しながらも、玄関に足を踏み入れた。
内心、玄関の壁に押し付けたい気持ちをなるべく押さえ込んだ。
自分のペースを乱される。
『あのさ、マリは?』
まだ朝早いから寝ているのだろう。
「寝ていると思う。それよりリビングでお茶でも飲もう。」
私は皐をリビングまで誘導して、台所でお茶の準備。
皐はソファーに座わり、目を擦りながら眠気と戦っている。
猫みたい。
お茶をお膳にのせて、皐の前に出す。皐は軽く会釈してお茶に手を出そうとしている。
『ありがとうございます!頂きます!』
「なんで、敬語になるのよ。普通でいいから」
軽くため息を吐きながら皐を見る。
大学内では『クールで皆の王子様』という印象の皐。
私の前ではヘタレ猫。
このギャップが何とも可愛らしい。
さっきより緊張が解れた皐はコップを置いて口を開く。
『あのさ…椿がもう一度私を見てくれるようになって嬉しい。最初は忘れられているのかなって不安になったの。今はこうしてそばにいるから、余計に嬉しい。』
皐がそう思うのは、当たり前のことだ。あんな冷たい態度をとったのだから。
自分でも馬鹿なことをしたと思う。
「悪かったわ。あんな態度をとって…貴女の為と思ったことが不安にさせてしまったわ。」
『もう大丈夫だからさ!今の幸せがあれば、過去なんて良い思い出になるんだから』
なんか心の奥がじんわりと暖かくなる。この感じ、皐と出会った頃を思い出す。
私が皐を想う理由が固まっていく感覚
。
簡単な理由だったのね。
自然と口角が上がり、静かに皐の隣に移動する。
驚いた表情で私を見つめる皐。
「いつの間に大人になったのかしらね。それに大丈夫ということは、私を少しでも受け入れたってこと?」
私の言葉で皐の顔がまっ赤になっていく。
『そういうことじゃないから!かなりプラス思考すぎ。なんというか…安心したというか…』
恥ずかしくなると、声が小さくなるのは癖なのかしら。
皐にさらに近づいて、綺麗な瞳を見つめる。
逃げ場を失った皐は、怯えながら私の瞳を見ている。
私は衝動を抑えきれずに皐の腕をとり、自分の方に引き寄せた。
皐の前だと自分が開放的になってしまう。
自重する気もない。
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