16章

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腕の中にいる皐が小さく暴れている。 分からないフリをして、皐に問いかける。 「安心=受け入れてる証拠でしょ?観念しなさい」 『うっ!なんか椿が大人気なくなる見える…』 「何とでも言いなさい。私は貴女を…」 この続く言葉を今言うわけいかない。 やるべきことが残っている。 彼女の感覚を忘れたくない。 余計に腕の力が強くなっていくのが分かる。 『椿…少しだけ痛い…』 蚊のような声で訴えてくる。 腕の力を緩めて、皐から少し離れてまた瞳を見つめる。 皐の顔はゆでダコのようになっていた。やり過ぎたかしら。 「もう痛くないでしょ?それよりベッドで少し寝なさ…」 最後まで言いかけた所で服の裾を掴む感覚が伝わった。私は再び視線を皐に戻すと、さらにゆでダコになっていた。 『もっ…と…』 「えっ?」 皐の声がさっきより小さくなって、きこえづらい。 聞き返すと、皐は顔を上げて勢いよく口を開けた。 『もう少しだけ…抱きしめて…』 大胆発言すぎる。 私の理性を試しているの? 精一杯、欲望と戦って皐に近づいてソッと腕をとって引き寄せた。 「他人にそんな発言したら許さないわよ。」 『何も言ってないから!』 自覚がないって大変。 だから、星の数だけの女の子達が泣くはずね。 腕の中にいる皐を優しく抱き締める。 暖かい… 私は常に願うわ。 貴女のずっとそばにいることを… …………………… …………………… あれから何時間が経ったのだろう。 椿に抱きしめられて、あまりに暖かくて意識が途絶えた。 季節は夏に近いのに、暖かいという表現はおかしいのだろうが… 心が温かいという意味。椿に流されているような気がする。 そして、背中にぬくもりを感じる。 柔らかい何かが当たっているような… うっすらと目を開けた。 腰に違和感を感じるので手探りすると、椿の白く長い腕が腰に絡まりついている 。 『そんなにしなくても逃げないのに…』 ため息をつきながら、ゆっくりと上体を起こした。まだ腰に椿の腕がまわっている。 小さく笑い、アナログ時計の音がしたので、そちらの方向を向いた。 時計は『15時』を指していて、カーテンの隙間から弱い日射しが漏れていた。
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