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一蔵は夢を見ていた。
豊前(ぶぜん)県にある熊門(くまもん)という街から一蔵の住む神関の街に、親友が引っ越して来た日の事を。
当時一蔵は旧制中学四年生であった。
「なんや、あんたも900形(一蔵の地元を走っている民鉄の電車)好きなんかいな?」
「そうたい。あげんツヤばある(格好良い)電車初めて見たばい」
それが阪神急行電鉄(凰阪と神関を結ぶ民鉄)の線路際にて、一蔵と親友が初めて交わした言葉である。
やがて交わした簡単な自己紹介を経て、親友の引っ越し先が一蔵の家の近所である事が分かると、二人はその日の内にすっかり打ち解けるのであった。
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