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「おーう、夜かぁ、寒いと思ったら。」
幾分かのんびりした声で祐之助は起きた。
私と女はといえば、先ほどの会話以降は「景色が綺麗ですね。」とか「今宵は上弦の月だったか。」とか、ほとんど独り言に近いことしか言い合っていなかった。
そしてずっとお互いに外を見続けているばかりだったのだ。
「へぇ。よく星が見えるでねーの。今はどの辺りだろうなぁ。」
祐之助の言葉に返答する間を誤ってしまい、何も返せずにいると、祐之助が不審そうな目を此方に寄越した。
「綺麗すぎて言葉が出なかったんだよ。」
「……フゥン。」
私が外から目を離さないまま答えたせいか、まるで信じていなさそうな返事が返ってきた。
列車が石を踏みつけて進む音が調子よく響き、どこか心地よい。
「土方様は…」
「おん?」
「土方様は、どんなお気持ちで此所に昇る月を見たのでしょうね。」
女が唐突に口を開いた。
慈愛に満ちた母のような眼差しだったと思う。
あまりに美しかったので、よく覚えていない。
自分が美化しただけではないかという、くだらない疑懼が、拍車をかけた。
「……その頃はお嬢さんのような瞳をしていたろうさ。」
祐之助がいつになく真面目な声色になった。
「お嬢さんが言った通りだ。所謂、賊軍として名を出してしまった土方姓のモンは、自分等が捕われねぇよう、歳三さんの跡は大急ぎで消したろうさ。」
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