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正直、興味が多少ある程度の私は、土方歳三という名は知れど、彼の生きざまは全く知らない。
在った事件を見てフムと唸るだけで、そこに後世に伝えるべきものを見出だすには至らない。
「土方ってのは、お前がそんなに尊敬する偉業を成したのか。ご一新を差し置いてまで…」
「瓦解。」
「は?」
私が話している最中に祐之助が言葉を被せてきた。
祐之助は此方を見ずに、大変小さな声でこう言った。
「おれはご一新なんざ思っちゃいねぇ。瓦解だ。徳川の瓦解だ。」
それを聞いた女が顔を上げる気配がした。
反面、私にはいまだに何一つ附に落ちる要素がない。
眉間の皺は寄ったままである。
「まァ、そう固くなるな。まだ先長いんだ。二週間の終いにもう聞きたくないと言われちゃ困る。」
祐之助は先の真面目さはどこへやら、飄々と笑っていた。
辺りはすっかり静まって、いつの間にか列車は停車していた。
昼間の列車が来れば騒ぐ人々が嘘だったように思えてくる。
右にも左にも山が見え、いよいよ東北に足を運ぶ頃とみえる。
遠くから、母親が子を叱る声がした。
子が泣き喚く声がした。
「…土方も、ああやってお叱りを受けたんだが、まぁ……大物と言うべき由がみえる言い伝えだな。動じなかったという。」
祐之助は、へらりと笑って言った。
そしてポツポツ語り始めた。
「土方歳三ってぇのはな…――」
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