序章

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時は明治。 鎖国が終わり、あれよあれよと言う間に辺りは和洋が入り乱れるようになった。 国の外からは真似事と嘲笑されるも、年を重ねる毎に江戸の姿は隠れていった。 「あのう。この辺に学舎はありやすか。」 「この通りの裏です。頭上もそうですが足元も気をつけなせぇ。」 「へへ、どうも田舎者でして…。」 街灯の下、人力車で生計をたてる私の元には道を尋ねる者が多く、学を講じる風潮が高まってきているのを感じる。 学が国を制す時代か、いやしかし彼の坂本龍馬は塾で最下位と言うから皮肉なものだ。 道を尋ねた男ははにかんで、頭を掻きながら去っていった。 維新が起きて早数十年、人力車の儲けは独り身には多く、こんな事なら洋傘屋でも営めば良かったかと思う。 そうすれば今より貧しくとも女房に、娘ごと出ていかれることは無かっただろう。 稼ぎを気にするあまり、情をほったらかしにしてしまった。 そんなことを思い出して目を伏せた時、私は小綺麗な身なりの女に声を掛けられた。 「もし、お暇よろしゅうございますか。」 「学舎なら…」 「あぁ、違いますよ。」 いつもの調子で案内するところであったのを制止された。 「少しお話しませんか。」
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