序章

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聞けば女は私が暇に読む歴書に興味があったそうで、しかし父親から女の学を反対され書を手に出来ず、堪らず上京してきたと言う。 ところが上京したは良いが、歴史の師を知らなかったので、歴史の話し相手を探して彷徨いていたそうだ。 「お前さんのような女がふらついちゃあ危ないでしょう。」 「私の意思と無関係に足が動くのです。」 「どうしてまた歴に興味を。」 「お慕いしているのです。」 「はァ?」 まだ若いせいか話の飛躍が激しく、私が愛想と道案内にしか大して頭を使ってこなかったのもあって、わけが分からず何度目かのすっとんきょうな声をあげた。 「私の力ではどうも浅い知識しか手に出来ず、悔しいのです。」 よく分からない女だと思った。 死人に恋慕の情など愚かしい事だ。 それに時代の流れとは真逆で、過激な集団に睨まれそうな趣味だ。 だが恨むような、哀しむような瞳からは、冗談は感じられなかった。 少し話せば、女は土方歳三という武士に惚れていると言う。 そこで私の知人に酔狂な奴がいて、其奴が歴に詳しい事を話すと、途端に目を輝かせ、身を乗り出して紹介してくれと迫った。 人懐っこい女に娘を重ね、五日後に此所で会おうと約束し、別れた。
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