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次の日私は幼なじみの酔狂男――祐之助の下に行き、事の全てを話した後、いつ暇かと聞いた。
「おれを見りゃあ分かるだろう。万年暇だ。」
「畜生、坊っちゃんが。」
「そう言うな。おれは働きたいが父上が許さんのだ。知っているだろう?次男は働いているのに三男のおれは駄目とは、意味も意思も皆目分からん。」
「ったく、金持ちはどこも出歩かせたくないのかね。」
「その女は女だからだろう。」
「じゃあお前はなんだ。」
「女男だ。」
冗談に笑ったところで、祐之助の姉が菓子を出した。
どこもかしこも洋風になる日本で、乗り遅れた私は洋菓子一つにもいちいち感動し、顎をさすった。
「ホゥ。やたら洒落た菓子だなぁ」
「びっくりするほど甘いぞ。女はこういうのが好きなんだそうだ。」
「えぇ。見ていても素敵で食べるのが惜しく思う時も。」
「飾らんのか。」
「まっ!可笑しな方。」
「ハハハ。」
月と街灯の区別がつかなくなった頃、ようやく私は立ち上がった。
少し前とは見違えるほど、夜は変わった。
餓鬼の頃はよく暗闇を怖がっていたもんだが、今じゃ怖がる影も無い。
どうもお邪魔しましたと言うときに、祐之助がああそうだと切り出した。
「簡単に旅の準備してくれや。」
「旅だと?」
「おう。その女と揃って北海道まで行こうや。日頃の息抜きがてら、旅行だ。その道中語る。」
「お前唐突過ぎるぞ。乗人はどうする。」
「三週間ほど、嫁がなんだと言って何とか出来んか。」
祐之助とは幼なじみであったし、女も連れれば家族旅行のような気分がして、正直楽しみであったが、やはり何か重いものを引き摺る気持ちもあり、頷くのを躊躇してしまった。
「第一、なして旅行だ。」
「父上が厳しいんだよ、女っ子相手に。地元で何度もは会えん。」
「旅行なんて、尚更許されんだろう。」
「お前と行くと言えば良い。」
「ハァ…。つくづく分からん親子だ。なら宿代はどうする。」
「いざとなりゃおれが出そう。旅行はおれの我が儘だ。」
今度こそ私は溜め息をついた。
昔から何の縁か付き合いがあるが、今一つこの親子の考えやら価値観やらは理解できない。
「とりあえず四日後に女に聞いてみよう。お前もその時来いよ。」
私はそれだけ言うと、手をひらひらと振ってその場をあとにした。
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