序章

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その日、女は私の姿を見つけるとアッと声をあげ、駆け寄ってきた。 そして隣の男に目をやると首を可愛らしく傾げた。 きょとんとした顔のまま何か言おうとした女の声は、女の姿を認めてすかさず進み出た祐之助が放った言葉に、掻き消されてしまった。 「祐之助言います。歴に興味があるとの事ですが、お嬢さん、此方の男とおれと貴女で北海道まで行きませんか。」 これでは遊び人だろう、と私は祐之助の頭を叩き、女に向き直り、困ると言うのなら構いません、と付け足した。 次いで祐之助の家庭事情を話した。 女は何度もウンウンと頷いていた。 我ながら稚拙な誘い方で、まるで頷いて下さいと言わんばかりの説明の仕方だ。 祐之助の事を言えたもんじゃないな、と自嘲した。 「勝手のいい話ですし、会って間もない異性二人と旅行など、頷けるはずもありやせんよね。」 私の口からはつい、こんな言葉が漏れた。 男として、いささか気弱であると自責するも、やはり気張って飄々と計画を語るのもおかしいという結論に至り、さらに付け加えた。 「お話が聞きたいのであれば、私が祐之助の元で話を聞き、伝えます。」
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