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そこまで言ったところで、女はクスリと笑ってこう言った。
「行きます。これで私の身に何かあれば私自身の問題ですし、何より貴方がたが間違いをする方とは思えません。明日までに準備致しますわ。」
こればっかりは祐之助と顔を見合せた。
単身で上京してきたとはいえ、この女の口から全て自分の問題である、などという言葉を聞くとは、予想の範囲を逸していたからだ。
付け加えるならば、私が普通ならば心配するであろう事象を話したにもかかわらず、である。
「おれが言うのもなんだが…」
「はい、私の問題です。」
「……そうかい。」
祐之助は苦笑いであった。
明日再び此所に集まる事を約束し、私達は女の後ろ姿を見送った。
帰り道、こりゃ余計に間違いは出来ないなと祐之助と笑い合った。
女の世間知らずが可哀想に思ったが、どうしてか愛しさを感じた。
私は家に戻ると自分の持ち金を確かめた。
東京から北海道まで、行き帰りで三週間と少しだそうだ。
首を縦に振るまで在った重い気持ちは端に追いやられ、旅行を少し楽しみに思う自分を感じて情けなく思った。
だが、もう決まった事だと自らを割り切らせた。
念入りに準備を済ませたのち、早々に床についた。
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