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次に目を覚ました時は、既に空は明るくなり始めていた。
良く眠れたのだかそうでないのか釈然としない身体に鞭打って身を起こし、肌寒さにひとつ身震いした。
永遠にも感じる夢を見た気もするが、思い起こされるのは灰白その色のみである。
洗顔を済ませ、身支度を終えた頃、戸が叩かれた。
「お早うさん。ぅあ~ぁ。」
情けなく欠伸をしながら顔を出したのは祐之助であった。
「こんな早くから起きてくるたぁ珍しいな。眠れなかったか。」
私はそう話し掛けながら、適当に茶の準備をした。
「逆だ。早く寝過ぎて夜明けに起きちった。いやぁ、旅行を提案したのはおれだが、やはり楽しみでさ。鉄道が出来るなんざ便利な世になったもんだ。」
「全くだ。三十路には頭が追いつかん……おい、何寝そべってんだ。」
「半時したら起こしてくれや。」
それがどうやら私のもとに来た理由らしかった。
祐之助はやや時間にルーズである為、寝坊の可能性はいくらでもある。
それに関して、今回の祐之助の判断は賢かったので、ちゃんと起きてくれよと既に眠っている背中に言葉を投げるだけに止めた。
頭のほんの片隅で予想はしていたが、祐之助はなかなか起き上がる様子が無かった。
大声は好ましくないとして、なんとか起こそうと身体を揺すったが、下腹部に蹴りをくらってしまった。
どうにかこうにか起こした時には、いつもなら、既に人力車の車輪を掃除し終えて客を待っている時間になっていた。
「なしてもう早く起こさなんだ。」
「お前が愚図ってたからだろうが。」
大急ぎで支度を済ませ、現地に向かうと、既に女は居た。
競争でもするように、いい歳した男が走ってくる姿はさぞ可笑しかったろう。
出会い頭から大笑いされてしまった。
「すまない、お嬢さん待たせたかな。」
「格好なんぞ付けよって、お前が原因だろうが。」
「まあまあ。そこまで時間差はありませんでしたよ。私もつい先ほど来ましたばかりで。それより笑いすぎてお腹が痛いわ。」
女は腹を押さえ、口元に手を遣ってクスクスと笑い続けている。
動作一つ取っても何と上品なことよ、と感心した。
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