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鉄道の乗り場に来たは良いが、乗客より観客と言うべき人の数が遥かに上回っており、鉄道警備員が大声をあげ、たまに盛大に咳き込みながら、線路に近づくなと叫んでいる。
まだ列車は来ていないというのに、この有り様だ。
私たち男二人はナンテコッタと頬を引きつらせたが、一方女はと言えば、無言ではあったが目が輝きに満ちており、楽しんでいるのが一目瞭然であった。
「はい、下がって下さい!列車が来ます、下がって下さい!」
鉄道警備員が一際大きな声を上げると、見物客は一斉に身体を下げたが、首だけ前に出した状態になり、これでは列車が怖がって駅に入らんだろうと思う有り様であった。
「今からおれたちはあのデカブツに乗るのかぁ!」
「私も見とうございますのに!」
「赤錆色の四角に窓やら戸やらついてる。」
「私も見とうございますのに!」
女の背では、周りの下がってきた見物客と見たい一心で前に身を乗り出す見物客に押され、埋もれてしまい、背伸びするのも座るのも出来ないのだろう。
悲痛を含んだ声であった。
「仙台まで行きます!乗客を前に!乗客!お願いします!」
鉄道警備員も必死である。
私と祐之助はなんとか群衆を押し退け道をつくり、なんとかはぐれぬよう女の手を握って、なんとか列車に乗り込んだ。
列車が動き出したのを確認し、三人が居ることを確認し、三者三様に安堵の溜め息を漏らした。
「とりあえず座りましょう。」
私が言うと、祐之助は
「お嬢さん、こっちこっち。」
と、既に席に座って満面の笑みを此方に向けていた。
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