0人が本棚に入れています
本棚に追加
某時刻、某都内。
平和だったその世界は一つの悲鳴によって崩された。
悲鳴の先には、横たわる一人の男性と、手を血に染めた人間……否、“化物”だった。
化物は、「キシッ」と鳴くと、周囲にいた人間達へと襲い掛かり始める。
一瞬にして逃げ惑う人々でパニックになった街。そこはまるで映画の中のように、数々の悲鳴と断末魔だけがこだましていた。
――その時だった。逃げ惑う人々とは真逆の方向へ歩いて行こうとする少年がいた。
少し赤みのある短い茶髪に、黒目がちの瞳。そして、赤を基調とした市販のジャージを身につけた、いたってどこにでもいそうな少年。
少年は、全力でぶつかってくる人々や悲鳴を気にも止めず、化物のいる方へと歩いて行く。
「おい、何考えてるんだ。あっちには化物がいるんだぞ!アンタ、死にたいのか!?」
少年に気づいた者が、静止しようと肩を掴み声をかける。しかし、少年は怖がるどころか、ニヤリと笑うと、肩を掴む手を払い再び歩を進め始めた。
「お、おいっ!!」
止めようとした者も、それ以上は何もしなかった。この状況で、自分の命を危機に晒してまで、他人を救おうという余裕は誰にも無いのだ。
少年は、なおも歩を進め、遂にその惨劇の中心部へ辿り着く。
.
最初のコメントを投稿しよう!