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それ、は簡単に。
脆い砂の上の、泥の城のように。足場も脆ければ、城まで脆い。簡単に、日常は崩れ去った。
――跡形もなく。
「まじムカつく! 何回も何回も何回も忘れるなって言ったのに! あんのクソジジイ!」
まひろは持っていたカバンを引きちぎるかのように握り締めたる。
「まひろぉー、顔ヤバいよーぅ?」
棒付きの飴を口の中で転がしながら、親友で幼なじみでもある水菜が覗き込んできた。
グランドから校舎を見上げると職員室にはまだ人影がある。まひろは慌てて、綺麗に巻かれた髪を弄りながら、汐らしく振る舞う。
「てか、まひろパパが約束守った事あるっけ?」
夕日が差すグランドをだらだら歩きながら水菜が言った。
「ない。あるわけ無いじゃん」
「じゃあ期待しても無駄だし諦めなよー。あんたの事だしセンセとの面談は問題無かったんでしょ?」
確かに、教師の前では大人しく優秀な優等生を演じているまひろにとっては問題無かった。だが、守れないくせに『必ず行く』と息を吐くように嘘をつく父親に怒りを隠せずにいた。
「指定校推薦だし、学費はバイト代で払えるだろうし、ウンコジジイは放置して、まひろママだけ大切にすればいいよ♪」
勢いよく背中を叩きながら、明るく水菜が言ってくれたので、まひろも諦めたように笑う。
「今日のご飯当番は太陽だっけ?」
「そーだよ。早く帰ろーぅ」
2人は他愛もない会話をしながら、ゆっくりと帰路についた。
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