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俺は殺生神。生物の終わりと始まりを司る神だ。基本的には何もしなくていい楽な仕事である。
この世には『神』がいてあの世には『死神』がいる。基本的には、彼らが全ての仕事をやってのける為、俺に仕事がまわってくることは稀なのだ。
だからと言って全く仕事が無いわけではない。現に、今、現在進行形で、この瞬間、仕事をしている最中なう。
その仕事と言うのはだ。所謂、幽霊退治。そして今回の幽霊は、極めて稀な『実体を持った幽霊』なのだ。
つまり、今回の仕事は幽霊を殺す処にある。
その幽霊の生前は、女子高生だったらしく、未練があったであろう学校の校門の前に立ち、校舎を見上げていた。
暗闇の中、純白で飾り気の無いワンピースを来た女性は極めて異様であった。
異様さを極めていた。
俺はターゲットである幽霊に背後から近付いた。そして、ひとおもいに殺すために気配を完璧に消す。幽霊の長く黒い髪は風に揺れ、闇が実体を持って風自体になったかのようだった。
後ろから頭に触れて力を流し込む……。気付かれなければ、ただそれだけの簡単なお仕事です。
「そこにいるのは分かっているぞ」
その声に驚いた俺は、歩みを止めてしまった。一応、神の端くれであるところの俺の気配に気付いたのだ。警戒するに越したことはない。伊達にイレギュラーな幽霊と言うわけではないようだ。
「なぜ、後ろから近付いている事に気付いた?」
俺の問いに振り向いた幽霊は、この世のものとは思えない程の眩しい笑顔だった。確かにこの世の者ではないのだが……。
そして、後ろからでは分からなかったが、異常とも言えるほど整った顔立ちをしていた。おおよそ人が望む綺麗なものを寄せ集めたかのようだった。強いて言うなら、あなたが惚れている女性の顔です。
描写が卑怯だなんて言わせない。
満面の笑みで振り返った彼女は、さらに言葉を発した。それはまた、透き通るような綺麗な声で。
「うーわ! あたしビックリし過ぎて死ぬかと思った。まぁ死んでるんですけど。この台詞も365回目で、そろそろ寂しいわ痛いわでやめようかと思ってたところだったのよ。ところで、そこのイケメンなお兄さん誰? ナンパ?」
……ああ、早く殺してえーー。
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