未知との夏祭り

2/14
662人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
 翌朝、翌朝と言っても日は高々と登り、巷では「こんにちは」だとか「ハロー」なんかの挨拶が交わされるであろう時間に起きた俺は、炬燵机の上に書かれたダイイングメッセージの様なものを見ていた。  彼女の場合はダイイングと言うよりデッドな気がする。  木目をイメージした机に直接書かれたそれは狂気的で、何とも寝覚めの悪いものだった。  机に真っ赤なペンキで書かれていたのだ。御丁寧に垂れる字体で……。 「何がフラグ回収してきますだよ」  正確には、そんな丁寧な書き方では無かったのだが、内容的には相違ない。  九月なのに、夏の暑さがUターンならぬVターンならぬIターンで戻って来たような炎天下だった。  その上、やる気を無くさせるメッセージ付きだ。  ……これはもう寝るしかあるまい。  俺は、扇風機の風量メモリを最大まで上げ、タオルケットを投げ出して枕に顔を埋めた。 「そう言えば、今日は夏祭りだよな」  枕に顔を埋めたまま、自分に言い聞かせるように独り言を呟く。どうかイイネ! を押してくれたまえ。  ……どうでもいいね。  そして俺は、枕元に置いてある年代物の目覚まし時計に手を伸ばす。 「こいつ、どんな音が鳴るんだっけ……」  もう何年も目覚まし機能を使っていない為、もはや音が出るかすらも怪しい。鳴るかどうか確かめるのが無難なのだろうか……。 「まあ、鳴らなかったら鳴らなかっただな」  十七時にタイマーを設定し、さっさと夢の国に旅立った。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!