未知との夏祭り

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「ほら! 起きろよセッちゃん! 起きないとキスしちゃうぞ!」  目を開けると、ブチュー星人もびっくりな蛸の口をした幽霊が俺の顔を覗いていた。俺は脊髄反射で洗濯ばさみを手に取ると、今にも墨を吐きそうなそれに封印を仕掛けた。 「んーーーーっっ!!!!」  蛸が目から透明な墨を吐きながら踊っている。あっ、みくるビームか? ……早く取れば良いのに。  時計を見ると、短い針が五の字を。長い針が三の字を指していた。どうやら、タイマーは機能しなかったようだ。 「もう準備できてるんだな。さあ、行くか」  俺は頭を掻きながら布団から立つと、そのまま玄関に向かった。しかし、ドアノブを持つか持たないかの瞬間に背後から腕を掴んで引き止められた。 「せめて寝癖だけでも直してはくれませぬか? どうか! どうかお願いします!」  ……なぜか必死な幽霊である。必死とは必ず死ぬと書くが、死んでるやつにも必死な感じは醸し出せるようだな。 「別に気にするなよ」 「ダメ! あたしは初祭りなんだから気にするわよ! さては、初めてはちゃんとシャワーを浴びてからじゃないと嫌だって言う乙女心が分からないのね! だからいつまでたっても」 「それ以上言うな。寝癖直してくる」  なぜだろう。あれ以上喋らせたら取り返しのつかないことになりそうな気がした。 「早くしてよね。急がないと金魚が全部すくわれちゃう」 「大丈夫だよ。どうせ、一日中客が来ても大丈夫なくらい予備がいるから」 「嘘だッッ!!」 「祭りとは言っても綿流し祭じゃないぞ。ネタ的には時期が良いが、そんなレナばりの大声を出されたら、大家さんがびっくりするだろ」  それに、綿流し祭は六月だ。 「ほら、さっさと行くぞ」  寝癖が完全に直らなかった俺は、言い方次第で無造作ヘアと名乗れるギリギリのラインで妥協した。礼子に何も言われなかったところを見ると、ギリギリマスターになれたようだ。
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