未知との夏祭り

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 俺は綿菓子を一つ平らげると、予備にもう一つ買って次へと向かった。  次と言っても、屋台を端から順番にまわって行くだけの話である。 「いよいよ来ましたよ! ほら! 金魚すくい!」  出発前から散々口にしていた金魚すくいである。目の前に店があったならばテンションが上がって当然だろう。全身で喜びを露にして、ドジョウすくいを踊る幽霊に救いの余地はない。 「セッちゃん! ほら、早くすくうのだよ! 沢山いるよ。選り取り緑だよ。金魚銀魚パール魚プレゼントだよ!」  よく分からんが、すくうのは俺らしい。ここで渋ってもどうせ時間の無駄だと分かっているので素直に従う。 「おじちゃん。一回頼む」 「あいよ」  無愛想なおじさんは、緩慢な動きでポイを俺に渡してくれた。  そして、俺はゆっくりと水槽にポイを浸した。いざターゲットの金魚をすくおうと近付いたその時。 「何でこんなタイミングで出やがる」  金魚水槽の中に妖怪じみた禿げたおっさんの霊が浸かっていた。……なぜこんなところにいる。そしてじっと俺を見つめていた。  こっち見んな。  そして、驚くべき速度で俺のポイに人差し指を刺して破いた。 「…………」 「…………」  俺とおっさんは一瞬時間が止まったかのように見つめ合った。 「成仏しやがれ」  俺は唐突にそう言っておっさんの顔面を鷲掴みにし、力を送って強制成仏させた。その後、客が金魚をすくう確率が急上昇したのは言うまでもない。 「ちょっとセッちゃん! 一匹くらいとってよね」  そんな文句を言われても取れないときは取れない。取り敢えず、もう一回分金を払ってポイを受け取った。  慎重に金魚に狙いを定めて近付くが、またしてもポイは簡単に破られる。今度の犯人はブルーギルだ。……なぜこんなところにいる。 「セッちゃん次! 何か捕まえるまでやめちゃ駄目だからね」  鬼畜以外何者でもない台詞を吐く幽霊。ブルーギルに狙われる水槽でどうしろと……。  しかし、そこで新たな客が水槽に入り込んだ。大きな水しぶきと共に俺の目の前に飛び込んだ。……なぜこんなところにいる。 「おっさん。このセキセイインコみたいな奴も、すくえば貰えるの?」 「もちろん」  なぜ俺の前にばかり変なものがいるのかは不明だが、現れたものは仕方ない。……すくうか。
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