未知との夏祭り

11/14
前へ
/61ページ
次へ
「お前には何も分かるまい……。何も知らない者が何を見ても……。そう……何も理解できない」  そう唐突に低い声で言い放ったインコ。鍵だからって安直な発想だな。さすが鳥頭。 「ちょっとそのインコ黙らせて。手元のキーブレードでも使ってさ」  なぜかいつもと違ってテンションが低くなった礼子がそう言った。 「こうか?」  鳥あえず、敢えて鳥あえず鍵を鳥の口に突き刺した。すると、苦しそうな声を上げて抵抗したが、どうにか黙った。 「どうしたんだ? いつものお前らしくないぞ」  俺の礼子に対する問い掛けに、彼女が答える素振りはない。 「まあ、言いたくないなら別に良いけど……。成仏に関係ない話ならだが」  その言葉を聞いた礼子は一瞬口を開いた後、きつく口を結び、再び笑顔へと戻った。  何だよ。あからさまに事情ありじゃねぇか。 「実は、セッちゃんに秘密にしてたことがあるの」  作り笑顔。……誰の目から見ても明らかなそれは遠くから聞こえる祭り囃子も相まって、えも言えぬ非現実味を持った姿となった。 「実は……」  礼子が口を開いて言葉を吐き出そうとした瞬間。カーボン紙を敷き詰めたような夜空に、明るく輝く大きな花が一輪咲いた。 「話は後だな。初めての祭りなんだろ? さっさと登れよ。特等席だぞ」  礼子は俺の言葉に小さく頷くと、十一秒フラットの駿足で階段を駆け上がった。 「さて、内緒の事とは何の事やら……」  階段を登るのが面倒な俺は、空中浮遊で天辺まで飛んだ。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

662人が本棚に入れています
本棚に追加