未知との夏祭り

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 電波塔の上にまで飛ぶと、そこには階段で上がったにも関わらず俺より早く登頂し終えて次々と上がる花火に目を爛々と輝かせる幽霊がいた。  花火以上にその目は輝いていた事は言うまでもない。  鉄柵から身を乗り出して食い入るように目を見開く彼女は、初めての祭りと言う事なので、もしかしたら打ち上げ花火を間近で見るのも初めてなのかもしれない。 「あれがラピュタの雷か!! 目がっ目がーっ!! メガローーーン!!」  ムスカの真似か、一護とルキアにフィギュアを砕かれたオタクの幽霊の真似かハッキリしてくれ。  それより、先程までの暗い雰囲気から一転し、いつも通りの……アホオタクなテンションに戻ってくれたようだ。 「へっ! 汚ねぇ花火だ。ぽっぽ、またバイトからやり直しだ」  文句っぽいパロディネタを使ってるが、そんなに嬉しそうに笑ってるなら敢えて突っ込みまで入れる必要はないだろう。 「セッちゃん! あたし決めた! あたし三日後に消えるから。安心して」  突然決意に道溢れた顔をこちらに向けて礼子は言った。 「これは決定事項よ。断固として曲げない。断固桜木よ」 「そうか、俺は後三日おまえの迷惑極まりない存在を我慢すればいいのか」 「おわふ! あたしの存在がぞんざいな扱いを受けてる! ちなみに聞いときたいんだけど、あの世ってどんなところ? 楽しそうなら良いなー。まあネットがありゃ最悪のパターンは逃れられるわ」  成仏前の霊には禁則事項だ。……あの世と言っても、死神が事務作業的に魂を初期化して転生させるための処理場みたいなところだからな。  自我自体、長くても一日程度しか維持されないだろう。人間なら、魂の初期化後に三歳児くらいの子供にぶち込まれる。……よっぽどの強い意志が残って死んだならば、潜在意識として残る可能性がある程度。  あの世がどんなどころかワクワクしている霊に、消されるだけなんて言えない。 「行ってみれば分かるよ。それより、悔い無く逝けるんだろうな?」 「当たり前! 最後にちょっとセッちゃんの助けを借りるかもだけど。あの世に行ったら、またセッちゃんち行くからね。せいぜい掃除しとくんだね」  ああ、悔いが残らないようならそれで構わない。
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