未知との別れ

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 顔をグシャグシャにして涙を滝のように流しながら優子は言った。人刺し指は涙に濡れる。 「そんなに泣くなよ親友! 優子はあたしに甘えてなんぼの可愛い生物じゃないか」  礼子は優子の髪を乱暴に撫でると、俺の方に歩いてきた。 「さあ、あたしの未練も消えたことだし。成仏させてよセッちゃん!」  おっと。完全に空気と化していたので突然の声かけに反応が遅れるではないか。成仏させれば良いんだな? 礼子を成仏させれば良いんだよな? だが、断る! 「未練が無くなれば、俺の手を借りなくても自分の力で成仏できるはずだ。それに、俺は礼子の未練が無くなるまで付き合うって言ったはずだが?」 「セッちゃん!! 最後の最後まで御迷惑おかけします!!」  綺麗なスライディング土下座からのジャンピング土下寝を決めてくれた。後ろで優子が日常風景を見るようなリラックスした顔で礼子を見ている。 「で? 俺の力で何をして欲しいんだ?」  俺は自分で言ったことは絶対に曲げない。 「優子を生き返らせて!」  ……は? 「……は?」  ……ぱーどぅん?? 「……ぱーどぅん??」 「実体はある。死体もある。誰にもバレてはいない。セッちゃんにすら今日まで気付かれなかったくらいだし。どうよこの優良物件! 買いでしょ! 買い! いつ生き返らせるの? 今でしょ!?」  何が今でしょ!? だよ。……確かにこれだけの条件なら生き返らせる事も可能かもしれない。しかし、他の神にバレたら俺は神から降ろされるだろう。最悪、魂ごと酷い処分を受けるかもしれない。だが! 「優子が生き返りたいって言うなら生き返らせてやる」  条件はこれだけだ。しかし……いや、やはりと言った所か。優子は顔を渋らせた。 「礼子がいないこの世界に生き返っても意味無いわ。礼子……せっかくだけど」 「あたしが生まれ変わって会いに行くとしたらどうですか?」  突然の申し出だった。……ハッタリだろう。そんなことは神にでもならないと無理だ。 「でも、生まれ変わっても私に会うまで時間がかかりすぎるよ」 「すぐ行く! 走っていく!!」  それはそれは真っ直ぐな視線で言った。そしてその目は、イエスと返事をするまで諦めない眼差しだった。 「じゃあ……」  ……これにて、俺の殺生神生活が終わりを告げたのであった。
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