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ノートを交互に見比べながら、それにしても泉堂の字は綺麗だよなあ、と思った。
席が隣同士なので、俺が学校に来ていた間に行われてきた小テストの交換採点などで泉堂の字は何度か見ているけれど、なんというか、彼女の字はまじまじと見ていたくなるようなものだった。
少々角が丸っこいけど、全体的にバランスが取れている。それは機械のような完璧な美しさとは違うけれど、俺はその方が好感が持てた。
「樋渡くん、手が止まってるよ」
「え、あぁ、サンキュー」
言われて初めて気が付き、再び左手を進める。内容でなく字そのものを見ていては、どうしようもない。
その後、俺はものの数分で今日に繋がる内容を全て写すことができた。
「終わったよ、ありがとな」
泉堂への感謝の念と共に、なんとか最後の力を使って左手を動かしてノートを返却する。
「どーいたしまして」
泉堂が、受け取ったルーズリーフを机の中にしまうのを見ていると、突然俺のズボンのポケットが暴れだした。見れば、ポケットの中で、マナーモードの携帯が振動している。
「電話……慶次からだ」
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