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「もしもし」
『よぉレイ、学校はどうだ』
スピーカーから、雑音混じりに慶次の声が聞こえる。
「どうって、ぼちぼちやってるよ。お前こそどうなんだよ」
『おぅ、こっちは頑張ってるぜ、まぁ荷物が重い重い』
「荷物?」
バイクを吹かしているはずなのに、何を言ってやがるんだこいつは。
『短期アルバイトの定番、引っ越しよ。働いてるツレに、急にヘルプ頼まれてよ、少し色付けるからってんで引き受けたんだ。でもやっぱ日給良いからな、これがハンパなくしんどいんだよ。でもな、さっき一軒目が終わったところなんだけど、そこの奥さんから寸志貰っちゃってさ』
「スンシ?」
『ちょっとばかしの気持ちって意味だよ。いくらかはまだ見てねえけど、いやあ人の厚意ってのはいいもんだな』
「よかったな、充実してるみたいで何よりだよ」
『あ、やべ、休憩もうおわっちまう。んじゃな、レイ』
何やら慌ただしい様子で、通話は一方的に切れてしまった。
「哲丸くん学校サボってバイトしてるんだ?」
泉堂が唇を細めて笑う。その笑みはさながら秘密を知ってしまった子供のようだ。
「盗み聞きは関心しないな」
俺は携帯をポケットにしまい半ば呆れ口調で呟く。
「近くにいるんだから聞こえるよ~。それに、樋渡くんが携帯使ってるの初めてみたから……なんか新鮮だったな」
確かに、携帯なんて用が無いときにはいじらないからな。
「別にメールはあまりこないし、電話もめったにしないしな」
まぁそのめったにこない内の大半が慶次か姉ちゃんなのだけど。
「そういう泉堂もあまり携帯いじらないよな? もしかして友達いないんじゃ……」
勿論本気では言ってない。クラスが変わり半月以上経つが、俺が知る限り泉堂はよくクラスの女子達と喋っている。恐らくアドレスも数が少ない俺の何倍もあるんだろう。
「あ、失礼な、メールくれる友達くらいいるよ」
そういって泉堂はカバンから白色の携帯をとりだした。泉堂の携帯は俺の昔ながらのそれとは違い、少し小さなパネルのスマートフォンだった。
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