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「ほら、今もこうしてメールがきてるんだから」
嬉しそうに言って、泉堂は自分の携帯に目を落としてしまう。
誰からなんだろう。
他人のメール事情なんて、普段は全く気にかけない。というよりそもそも、高校に入学してからというもの、他人をほとんど意識したことがなかった
「送信、と」
タッチパネルを弾く、ミルクで出来た洋菓子のような親指を見るでもなく眺めていたら、送信し終えたらしい泉堂が顔を上げた。そこでがっつり目が合ってしまい、俺は反射的に視線を逸らしてしまう。
「いいな、メールができる相手がいるって」
「樋渡くんはいないの? それとも、男の子ってあんまりメールとかしないのかな」
「ああ男はきっと女子より控えめだと思うけど、俺なんてそれに輪をかけて少ないと思うぜ」
実際のところ、俺のメールボックスは世話焼きの姉によるものが大多数を占めていて、あとは時たま慶次が中身のないしょうもないメールを寄越すだけだ。登録されている数も、それぞれの仕事で家を空けている両親、姉ちゃん、慶次の四人だけで、これは俺の悲しい交遊関係を如実に表していた。
「あ、それだったらさ、」
泉堂が何か言いかけて口を開いてすぐ、休み時間の終了を告げるチャイムが響く。
「うわ、もう休み時間終わりかよ。ごめん泉堂、もう一回言ってくれないか」
「え? や、なんでもないよ」
「そ、そうか? でも今、」
「本当になんでもないったら。ほら、次現国だよ」
頑なに言い切るその表情には、張り付けたような笑顔がある。なぜはぐらかそうとするのだろうと思ったけれど、考えたところでわかりそうになかった。
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