Koharu Sendo

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(は、恥ずかしかった……)  現代国語の教科書とルーズリーフを取り出しながら、まだ弾む様子の胸をそっと撫でる。担当の宮崎先生が入ってきて、起立、礼、着席、の一連のルーチンをこなしてようやく、さっきのことを冷静になって思い返すことができた。 (もし樋渡くんさえよかったら、私とメールしてくれないかな)  チャイムに阻まれて樋渡くんに届かなかった言葉は、大体こんなものになるはずだった。なけなしの勇気を振り絞ってようやく口にできそうだったのに、引っ込んでしまう。次にまた同じ言葉を言おうとすると、さらに勇気の上乗せが必要だということは、目に見えてわかっている。 「なぁ、泉堂」  宮崎先生が出欠の確認を取る声を掻い潜って、隣から樋渡くんが控えめに私を呼んだ。 「な、何?」  さっきのことがまだ尾を引いているのか、声が上ずってしまった。 「この活用形っていつやったんだ?」  そういって樋渡くんが前の黒板をあごで指す。私も授業をあまり聴いていなかったから黒板を見ても内容がイマイチ分からなかったけれど、すぐに前の授業の続きをやってる事に気付いた。 「これは……前の時間に貰った活用表のプリントに書いてあったよ。樋渡くん、この時間終わったら先生の所に貰いにいかないと」  ファイルに挟んでいた活用表を取り出す。次のテストの範囲はこれも含まれてるらしいので、大事にファイルに保管していたものだ。 「そっか、悪いけどそのプリントちょっとだけ見せてくれないか」 「いいよ」  はい、と左手で彼にプリントを渡す時、微かにあたたかいものを感じた。 「サンキュ」  樋渡くんは、気づかなかったのだろうか。指と指、かするように触れあい、体温を交換した一瞬に。  ああもう、どうして些細な事で意識してしまうんだろう。  彼の方だけ平然としているのが、面白くなかった。私ばっかり意識しているみたいじゃない。  結局、樋渡くんがプリントとにらめっこをしている様子を横目にうかがっているうちに、授業終了を知らせるチャイムが教室内に響き渡った。 「次、体育なんだな」  樋渡くんが呟く。その表情はなんとも憂鬱そうなものだった。 「ホントだ……樋渡くんまたね」  男子は教室で着替えるけど女子は更衣室だ。私は用意を持って席を立った。 「ああ」  その樋渡くんの短い返事を受けて、私はクラスの女子の流れと一緒に更衣室に向かった。
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