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「瑚春ー」
教室から一歩踏み出した瞬間、私のよく知る声が聞こえた。
「瑞季」
隣のクラスの出入り口から今まさに出てきたのは、幼なじみの瑞季だった。
「やっと体育だわ。やっぱ、机に張り付いて一時間なんて無理よ、無理」
言葉通り、顔を机に張り付けて船を漕いでいたみたいだ。顔に半月状の跡がある。
今にも関節の鳴る音が聞こえてくるような伸びをしながら、瑞季は勇み足で更衣室へと向かう。ピンと張った背中に続きながら、こういうところは中学の頃から全然変わっていないなあ、と思った。
「今日って、何するの?」
「えっと……今日から確か体育館でバレーじゃなかったっけ」
先週の体育の終わり際、先生がそう言っていた気がする。
「なんだ、バレーなのね。ソフトボールが良かったわ」
まあ、バスケじゃなかったらなんでもいいわ、と小さく付け足した。
瑞季は、小学校の頃からミニバスケットをしていた。そこでバスケの魅力に気付き、中学校でも当たり前のようにバスケ部に入り、その才能を開花させた。二年の頃から一桁の背番号を手にして、三年の時にはキャプテンとしてチームを率い、県大会まで出場し、その年の県選抜に選ばれた。
当然、幾つかの高校から声がかかり、その中で瑞季は、私が志望していた今の高校にスポーツ推薦で進学することを決めた。『家からわりと近いし 』なんて事も無げに言っていたけれど、きっと瑞季は、私が志望していると知ってここへの進学を決断したんだろう。そんなことは自惚れるまでもなく分かるし、何より私自身、瑞季と離れたくなかった。だから、それはきっと瑞季だって同じなはずだった。
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