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去年の入学と同時にバスケ部に入部した瑞季は、順調に部内でも頭角を表していて、夏の大会ではベンチ入りながらもユニフォームを手にして、秋からの新チームでは一年生にして唯一レギュラー入りを果たしていた。
今の環境の中で努力を怠らず、しっかりと結果を残している瑞季は、本当にすごいと思う。だから普段の反動で、授業でまでバスケットがしたくないというのも、仕方ないと思う。
「それで、最近バスケ部はどうなの?」
最近では、瑞季の部活動の近況を聞くのだって楽しくなってきた。
「どうもこうもないわよ。体験入部の一年生がほとんど辞めちゃってさ」
「せ、泉堂さん」
会話の間を縫うようにして、声がかかる。声のした方を振り向くと、見覚えのない男子が立っていた。
「ちょっと、話があるんだ。今から来てくれないかな? あまり時間は取らせないから」
彼は柔らかな物腰で、けれど有無を言わさぬように私の目を見ながら、話した。
「瑞季、行ってきていいかな」
一瞬、どうしてあたしに訊くのよ、と言いたげな顔になったけれど、すぐにめんどくさそうな表情になり、怠惰に頷いた。
「いいけど、早くしてよ」
その瑞季の言葉を受けて少し申し訳なくなりながら、私は彼に付いていった。
その人についていくと、人通りのない用具室の前に着いた。そこはとても静かで、廊下の喧騒が少し遠くに聞こえる。
「それで……話って何?」
そう言うと彼の表情が引き締まる。
「単刀直入に言うよ、前から……君の事好きだったんだ。僕と付き合ってくれないか?」
それは、今まで何度も聞いたフレーズ。
「ごめん、私、あなたとは付き合えない」
そして何回口にしたかわからないこの切り返し。淡々と、まるで台本でもあるかのように私の口からこの言葉が発せられる。
「……そっか」
少し間を空けて彼が口を開く。そして諦めたように笑い、言葉を続ける。
「もしかして、他に付き合ってる相手がいるの?」
「……別にそういう訳じゃないよ」
「じゃあ他に好きな人が?」
間髪入れずに質問を重ねられ、思わず眉を潜めてしまう。彼の何気ない一言に、言葉に詰まってしまった。
否定すればいいんだろうけど、私の頭の中には、なぜか『ある人』の顔が浮かんできた。
「……ごめん、友達待たせてるから」
そういって彼の方を見ずに走り出す。
私は否定できなかった。
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