117人が本棚に入れています
本棚に追加
「お待たせ」
瑞季のいる場所に戻ると、壁にもたれて携帯をいじっていた。更衣室に向かう同じクラスの女の子が、急ぎなよーと声をかけてくれる。
「意外と早かったね」
淡々と言って携帯をしまう。こういったこと――つまり、私だけ呼ばれて瑞季を置いてきぼりにしてしまうこと――は、中学の時から数えると正直一度や二度じゃない。適応力のある幼なじみは、私の呼ばれた理由なんてもうとっくに察している。
「うん、相手の人……しつこくなかったから」
それだけで、瑞季は「そう」と納得してくれた。詮索することも、ない。
もう、この事は忘れよう。思いを無下にしてしまったのは心苦しいけれど、まさか名前も知らない男の人の告白にこたえるわけにはいかない。
「早くいこ、授業始まっちゃう」
そう言って瑞季はまた一人先に歩きだす。
「そうだね」
と私は小さく言った。
体育の段取りは、先生の指示でランニング、体操をしてから二面のコートに別れてバレーの試合をする、というものだった。好きにチームを組んでいいと言われたので、私と瑞季は一緒のチームになった。男女両方体育館での授業のようで、隣のコートでは男子がバスケをしていた。
「男子、バスケなのね。あーあ、やっぱりあたしも混ざろっかなぁ」
やっぱりなんだかんだ言っても、ボールの弾む音やプレーを見せつけられると、体がうずくらしい。
「あ……」
思わず、声を上げてしまう。男子がプレーしている中に、樋渡くんを見つけた。彼はあまりボールに触ろうとせず、その輪に入ろうとしてない。
「瑚春、いた?」
何だか悲しい気持ちでその様子を見ていると、瑞季から声がかかる。
「え、誰が?」
「ほら前に言ってたじゃない。隣の席の、最近話すようになった……渡辺君、だっけ?」
「違うよ、樋渡くんだってば」
「そうそう、まだ見たことなかったからね。どこにいるの?」
「……あそこ」
今の樋渡くんはあまり見られたくなかったけれど、ごまかしても仕方ない。私は控えめに指をさした。
最初のコメントを投稿しよう!