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「ああ、あの一人だけあぶれてる人」
「ちょっと! そんな言い方ってないよ」
体育館のざわめきに紛れた声は、普段に増して大きなものだった。
「ご、ごめん」
びっくりした様子で、瑞季が私を見た。でも、こんな声が出るんだと驚いたのは、他でもない私だ。
「言い方が悪かったわね。でも瑚春、あの樋渡君、きっと普段からあんな感じじゃない?」
瑞季が、ほとんど確信の含んだ声で訊ねてくる。私は無言で頷く。認めたくはないけれど、嘘をついたところでどうなるわけでもないのだ。
「私だって、今年初めて同じクラスになったんだけど、あまり他の人と仲良くしてるとこは、見てない。哲丸君っていう、同じクラスの男子とは中が良いみたいだけど、今日は来てないし……」
「それで一人ってことね。でもそれだったら瑚春、あんたがもっと樋渡君と仲良くしたらいいじゃない」
え、と喉からかすれ声が漏れる。瑞季がまっすぐにこちらを見ていた。
「簡単なことよ、あんたが証明してあげるのよ。樋渡君は素敵な人だよ、こんなに面白い話ができる人なんだよって。あんた、こないだ言ってたでしょ、『樋渡くんは、他の男子とは違う気がする』って。ほら、瑚春はもう気づいてるじゃない。説明ができないのに、ナゼか惹かれてる。それかいっそ、あんたが独り占めするのよ。みんなが知らない彼のいいところは、私だけが知ってるのよって。少なくとも私だったら、そうするけどね」
だって、自分だけの宝物みたいじゃない、そういうのって。
なぜたか、顔が赤くなるのを感じる。あの樋渡くんが私にとっての宝物になるかもしれないだなんて、うまくイメージができなかった。
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