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私たちの試合が始まってからも、私はボールの動向の確認も程々に、樋渡くんのことを考えていた。
恋愛感情と言われてもしっくりこないし、かといって一言では表せそうにもない。今までに人を好きになったことは何度かあったけど、こんなもやもやは始めてだ。
「瑚春!」
名前を呼ばれて、顔を上げた。視線の先には、先ほどまで放物線を描いていたであろうボールが、目の前に迫っていた。
「きゃっ!」
思わず目を瞑ってしまう。それからワンテンポ遅れて額の辺りにボールがヒットした。
「ちょっと、大丈夫?」
瑞希が慌てて駆け寄ってくる。
「う、うん……大丈夫だよ」
幸いボールには勢いがなかったので怪我はしていない。ただ、急な出来事だったから少しビックリしてしまった。
「樋渡君のことばっかり考えてるからよ」
呆れているような、からかっているような、どちらともとれる瑞季の声に、熱が上がってしまう。
「そ、そんなこと……」
「嘘々。それより、しっかりしてよ?」
慌てて反論しようとする私に全部を言わさずに、瑞季はにやけながら自分のポジションに戻ってしまう。とっさに用意した言い訳の言葉も、すべてチョコレートが溶けるようにしてなくなってしまっていた。
結局、試合が終わるまでのゲームの流れを、私はほとんど覚えちゃいなかった。彼のことを考えまいとしていたけれど、それは逆に言うと意識していることにもなる。そう思ってしまうと、後は瑞季が声をかけてくれるまで止まらなかった。
「結局最後まで上の空だったね」
言葉を濁してはいるけれど、やはり幼馴染みには筒抜けのようだ。言い訳をする気も起こらず、私は赤い顔をして俯くしかなかった。
「ね、男子のバスケ見に行こうよ」
ゲームも終わり、他の試合の審判も他の子がしてくれている。体の空いた私たちは、瑞季の提案で、男女の球技の間を隔てるために緑のネットが降ろされたコートの中央へと足を進めた。
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