117人が本棚に入れています
本棚に追加
「やってるやってる」
瑞季のあとに続き、防球ネット越しに男子の試合を観戦する。残り時間は一分もなかったけれど、私たちの他にも、ゲームを切り上げて観戦にシフトしている子が何組かいた。
「二十対十四か。もう決まりかな」
「瑚春のクラスの負けね」
今まで、瑞季に試合を何度も見てきた私は、この点差では逆転の可能性は限りなく低いことを知っている。私たちのクラスのチームには、樋渡くんがいた。大きな体に、青色のビブスが窮屈そうにフィットしていた。
出来ることなら、頑張れ! と叫びたかったけれど、そんな勇気が私にあるはずもない。瑞季や周りのみんなの目も勿論気になる。だけどきっと、この場が私と樋渡くんの二人だけの空間だったとしても、きっと叫べないだろう。
(樋渡くん、大丈夫かな……)
負けている私たちのチームは、どことなく雰囲気がささくれているような、そんな気がする。そして、どうやらその根源は、彼のようだった。
私たちのクラスがハーフラインまでボールを運ぶ。ボールを持っている松葉君が相手に詰め寄られ、ぎこちなくドリブルをしたままその場に留まっている。ほかのメンバーがディフェンスを振り切ってボールをもらおうとする中、一人だけ怠慢に動いているのが、樋渡くんだった。
最初のコメントを投稿しよう!