117人が本棚に入れています
本棚に追加
樋渡くんが積極的に動こうとしないから、きっとこうも点差が開いてしまったのだろう。松葉君が、誰もディフェンスを振り切れていない様子を見て、とうとうボールを持ってしまう。もう動けない。他の男子たちが試合をしているコートから、ドリブルの音が響く。その中に、舌打ちが聞こえた気がした。
もう、見ていられない。私が目をそらそうとしたその時、樋渡くんとふっと目が合った。こわばっていた表情が緩んで、私を射る視線が優しいものになった瞬間、私は口だけ動かして、
(ガンバレ)
そう届けた。
樋渡くんは、かすかに笑った。
瞬間、樋渡くんが駆け出した。一瞬の出来事に、ディフェンスはついていくことができなかった。松葉君も反応が遅れたけれど、樋渡くんがフリーになったことに気付いてパスを出した。それを受けた後の彼のドリブルは、とても速い。他のマークマンだったディフェンスが慌てて追うも、間に合わない。そのまま一人でゴールに突っ込む。
そこに一人だけ、ディフェンスが戻っていた。だけど樋渡くんはドリブルの勢いを弱めず、そのまま進んで、綺麗なロールターンでかわした。その動作があまりにスムーズで、隣の瑞季もあっと声を上げる。
最後のディフェンスを交わした樋渡くんは、そのままレイアップでシュートを決めてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!