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まどろみの中、電子音が耳から脳内へ駆け抜けるのを感じる。それはだんだんはっきりと聴こえだし、俺は重たいまぶたをどうにかこじ開けた。
「……ん」
天井をぼんやり眺めたまま布団から腕だけを伸ばし、手を左右に動かして目覚まし時計の場所を捉え、そこから流れ出る忌々しい電子音を止めた。カーテンを閉め切った窓からわずかに漏れ出る陽の光の線が視界に飛び込んでくる。
(うわ、もう七時じゃないか)
目覚ましを見てげんなりしてしまう。昨日までなら確実に寝てる時間だ。
昨日慶次に"学校に行きます"宣言をしたのを思い出し、俺はまだ未練の残るベッドから抜け出し洗面所に向かった。
「あっレイ、おはよう」
階段を降りた辺りでリビングから出てきたその人とばったり鉢会った。
「ん、おはよ……」
「相変わらず朝弱いなぁ。ほら、早く顔洗って」
姉の綾に急かされて、覚束ない足取りで洗面所へと向かった。
「この時間に起きるってことは今日は学校行くんだ?」
出来立てのトーストにマーガリンだけを塗って食べ始めてからしばらくして、向かいの席に姉ちゃんが腰掛ける。頬に薄く化粧が載っていて、既に出かける準備が出来ているのを窺わせる。
「なんか、不毛だなって思って」
「サボるのが?」
「サボるのも、学校前に行くのも。どっちも一緒なら、誰にも迷惑かけないようにしようかなって」
「その心がけは偉いけどね。でも学校は、嫌々行く所じゃないんだから」
姉ちゃんの言うことももっともだけれど、今はまともに聞くことのできる耳を持ち合わせていなかった。
歯磨きをして部屋に帰り、何日か振りに学ランを着込んで第二ボタンまで留めると、机の横に掛けてあるカバンを手にとる。壁掛け時計に目をやって時間に余裕がある事を確認し、鏡で髪型を整えて、ゆっくり階段を降りた。
「んじゃ、行ってくる」
玄関で靴を穿きながら家を出る事を知らせる。
「はいはーい、行ってらっしゃい」
姉ちゃんのその言葉を背に俺は家を出た。
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