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「ふぁ……」
無意識に口から漏れ出る欠伸を噛み締めながら学校へと向かう。クラス変えから何日も経たないうちに、俺は慶次と一緒に学校をサボっていた。理由は単純で、慶次以外に親しいやつもおらず、憂鬱に思っていた時に奴から提案されたのだ。サボらねえ? と。
昨日までずっと、俺はバイクのケツに乗って慶次の気の向くまま進む二輪に行先を委ねていた。夕日を浴びて鮮やかなオレンジ色に染まった春の海を高台から見下ろした時は、多少心も動かされたけれど、今朝姉ちゃんに言った通り、サボることに意義を見いだせず一抜けた、というわけだ。
実に一週間と振りの教室は、やはり見慣れない顔の集まりに違いなかった。みんな俺に一目向けるけれど、例外なく気まずそうに目をそらすだけ。クラスメイトからのこの対応が物語るように、俺はクラスからは浮いた存在だった。まだ二年になって間もないけど、俺はこの学校にもう見切りを付けていた。来ても来なくても一緒だ、と。
けれど、慶次の他に一人、積極的に話しかけてくる奴もいた。
「樋渡くんおはよう! 今日は来たんだ!」
自分の席にたどり着いた瞬間、おなじく自分の席に戻ってきたその人は花のような笑顔を見せた。
「おす、おはよう」
「もー、樋渡くんが来ない間、隣の席誰も居なくて変な感じだったんだよ」
「悪い、四十度の熱で寝込んでたんだ」
サボった、と直球で言うのは何だか憚られて、咄嗟に口がデタラメを話す。
「はいはい、どうせ嘘でしょ」
樋渡くんの言うことなんて、はなっから信じない、とでも言いたげな口調だった。一ミリも態度が傾いていないあたり、俺に嘘のセンスはないらしい。
俺が今しゃべってるのは泉堂瑚春(せんどうこはる)。クラス変えの時席が隣同士になったため、頻繁に会話するようになった。下ろした綺麗なセミロングの髪にスラッとしたスタイルが目を引く女の子で、慶次が言うには学校中の男子に人気があるらしい。
慶次の言っていた通り泉堂は明るくて、隣の席の俺によく話し掛けてくれる。俺は可愛さだとかじゃなくて、(まったく容姿になびかないのかと言われれば、口をつぐむけれど)、泉堂のその明るさが、俺は好きだった。
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