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「で? ホントの所どうなの?」
まだ疑っている様子の泉堂は、終結したと思っていた話題を再び持ち出してくる。学校中が認めるその容姿に見上げられて、思わず口ごもる。
「……マジで寝込んでたって」
四十度はリアリティーに欠けるよなぁと思いながらも、今更訂正するわけにもいかず、先程の言い訳を繰り返す。
「ホント?」
目線が正面衝突する。このにらめっこに負けようものなら、俺の嘘が見破られてしまうだろう。
「あぁ」
「ん~、」
じゃあそういうことにしといてあげるよ。何とか視線を保つ事が出来たが、泉堂はまだ疑っている様子だ。
「疑ってるのかよー」
明後日の方向に向いてすっとぼけたように言い放つと、泉堂はプッと吹き出して続ける。
「疑ってないよー」
俺の真似をしているつもりなのか、唇を突き出した泉堂がおどけて言う。
「バーカ」
その言動に、思わず作り笑顔でない自然な笑みがこぼれてしまう。苦笑でもない。こんな風に自然に笑うのは、何だか久しぶりに感じる。
「あっ、馬鹿ってひどーい」
俺の言った言葉に対して泉堂は本気でむくれてしまう。その泉堂の文句に俺が口を開こうとした瞬間、予鈴のチャイムが教室中に鳴り響いた。
「ほらあ、席につけえ」
その予鈴と共に、やる気のなさそうな声の眼鏡をかけた担任が教室に入ってくる。そこで俺達の会話は完全に中断された。
「あの先生、いつも予鈴と一緒に来るよね」
そう言いながらつまらなさそうに机に頬杖を突く。唇を相変わらず尖らせたまま。
「え~、今日の欠席は哲丸だけだな」
担任が教室を見渡して呟く。昨日慶次が別れ際に、まだしばらくバイクを転がすと言っていた。
「そういえば樋渡くんが休んでる間ね、哲丸くんも来てなかったよ」
泉堂が思い出したように口を開く。泉堂は俺と慶次が仲が良いことを知っていた。
「樋渡くん、友達なんでしょ? 何か知らないの?」
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