Koharu Sendo

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「意外って……俺ってそんなに勉強しなさそうなイメージか?」  我ながら、どの口が訊いてんだ、と思った。これまで勉強の二文字とはまったくといっていいほど縁がなかったのは、自分自身が一番理解しているはずなのに。 「うん、てっきり授業中は爆睡するんじゃないかなぁって思ってた」  それが俺のパブリックイメージ、ということなんだろう。授業中に机と向き合うことだって、平然とやっている。 「なんか、ここんとこ考えさせられたんだ。このままじゃダメだなって」 「へえ。これが知恵熱だったらどんなにいいだろろう、とか思ったんだ」  わりと真面目に答えたはずなのに、皮肉混じりに返される。というか、さっきから泉堂の言葉には、鞘のない刀のように情け容赦が欠落している。意外と毒舌の持ち主なのだろうか。  会話はそこで止み、泉堂も空気を読んだのか、ノートを写す作業に没頭する俺にそれ以上話しかけることはなかった。  結局両面丸々埋まっていたそれを写し終えたのは授業終了二十分前で、俺は黒板の文字の多さに辟易しながらも、指の付け根に力の入らない左手を無理やり動かして再びノート作業に取り掛かる。本日の量をすべて黒板に書き終えて、教卓にもたれかかりながらご満悦な表情を浮かべる佐川を恨んだのは言うまでもない。  勿論十分間では膨大な量の文字をコンディション最悪な左手で写しきれるわけも無く、黒板の内容半分ほど書き終えた時点で、無情にも授業終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
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