始まると言ったら始まるなり

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文久三年(1863年)。 蒸すように暑い日だった。 道場で稽古する者達は、このどうしようもない熱地獄の中で必死に己の竹刀を振っていた。 道場の奥には、暑さを吹き飛ばすが如く声で指南する男が一人。 その声に促され、より一層竹刀を振る腕に力が籠もる。 ここは、壬生浪士組。 京を守護するため集った、会津藩お預かり治安維持部隊である。 様々な身分の者が集まる烏合の衆ではあるが、その働きは徐々に認められてきている。 「あ゙~暑い!!」 「水、水ぅ!!」 稽古が終わったようだ。 ばらばらと隊士たちであろう、男たちが外へと出て来る。 乾いた喉を潤わせるため、汗を流すために皆が井戸へと向かっていた。 大方が出払った後、最後に道場から出て来る人影があった。 大柄な体つきの男。細身で長身な男。その二人より頭一つ分背が低い男。 手に手拭いを持ち、何やら雑談している。 「いやぁ、あっちかったが中々気合い入る稽古だったんじゃねーの?」 「迫力は無かったけどな」 大柄な男がわはは!と笑いながら背の低い男の背を叩く。 それを哀れそうに見ながら、しかし面白いので止めることはしない細身長身な男が言う。
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