始まると言ったら始まるなり

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台所で数名の隊士と共に、藤堂は夕餉の準備に取りかかっていた。 壬生浪士組の屯所であるここには女中がいない。 そのため隊士がローテーションで家事をしているのだ。 女子禁制の男所帯であるため、飯炊きが上手いものなどごく僅か。 当然の如く、料理は不味い。 日によって野菜の大きさが変わったり、味が変わったり、酷いときには丸ごと人参が入っていたという証言も。 藤堂自身も、炊事は誇れるレベルではない。 一緒に作業する隊士たちも同様。 「まーた文句の嵐なんだろうなぁ……」 独り言を呟き、大きくため息をついた。 の、だが――。 「うっめぇ!!!」 「なな、何だこの味噌汁!!」 「やべっ涙が…」 「美味だ!他まったく駄目なのにこれだけは最高だ!!」 藤堂としては驚きだった。 確かに自分が担当した品はアレだったが、このしじみの味噌汁はかなり旨い。 はて、この味噌汁を作っていた隊士は誰だったか…? 思考を巡らせていると、 「平助~、お前やるなぁ!!」 隣にいた原田が藤堂の背中を叩いてきた。 それ、いい加減やめてくれないかなと思いつつ、藤堂は「おいらが作ったんじゃないよ」と言った。 「あ、そなの?じゃ一体誰が作ったんだよォ」 「誰って……」 誰だろう? 急に黙った藤堂に、変な奴だなァと呟きすかさず漬け物を強奪。 それに怒った藤堂が乱闘がまがいを起こし、上司に怒鳴られるといった形で夕餉は終わりを迎えた。
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