始まると言ったら始まるなり

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「なぁなぁ、聞いたか?」 「聞きましたよ」 「は?なんだよ」 平隊士である三人は大きな一間で布団を敷き、その上で真剣な顔をして話し込んでいた。 彼ら平隊士は幹部たちとは違い、個々に部屋は与えられていない。 大きな部屋で雑魚寝している状態だ。 「お前、知らないのか?」 「だから何をだよ」 三人のうち一人が怪訝そうに眉を潜めた。 彼の名は佐々木愛次郎。かなり顔の整った好青年で、隊内美男五人衆の一人である。 佐々木の前には、少々強面だが愛嬌のある顔つきをした蟻通七五三之進(ありどおししめのしん)。 そして佐々木と同じく美男五人衆に数えられている楠小十郎。 三人は何かと仲が良く、就寝前にはこうやって話し込むのが日課になっていた。 「…浪士組六不思議だよ」 「え、七じゃなくて?」 「うるせーな!六つしか例が無かったんだよ!!」 いやそんなに怒らなくても、と苦笑いになる佐々木。 その様子をクスクスと笑う楠。 「これは壬生浪士組が始まってから、まことしやかに囁かれているらしい」 「……」 ごくり、と生唾を呑み込む佐々木。 怪談好きで、語りべが巧い蟻通。それを嫌というほど知っている佐々木は、無意識に寝間着の裾を掴む。
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