蝶は花を求めて

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洗面所に向かい、顔を洗う。 冷たい水のせいで眠気は完全に吹き飛んだ。 持って来た櫛で髪を整えて、顔を作る。 包帯はまだ緩んでいない。 まだ一日しか経っていないから当たり前か。 ふぅ、と一息ついて部屋に戻り、相変わらずぐちゃぐちゃに置かれた着物を持ち上げて右腕を袖に通す。 あまり目立たないシワ達を伸ばして乱れを無くす。 そして座り込む。 暇だ。まだ八時半。 少しの間その場でじっとしていたユーリだったが、不意に窓に近付いて小さく開けた。 カーテンの内側に入り、外に向かってキセルをふかす。 これなら煙も匂いもすずの方に行かないだろう。 ここも二階。見晴らしが良い。 人通りも少ないため、こんなことをしていても気付く人はいない。 なにを考えるわけでもなく、時間を気にせずに好きなだけ自分の空間を楽しむ。 曇った世界。 今にも雨が降りそうだ。 (あ、そういや今日って……。ああ、偶然かな……) ふっと口元を緩め、吐き出した煙を見つめる。 ユーリ自身、一体どれ程の間こうしていたのかわからない。
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