蝶は花を求めて

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ふっと笑って、ユーリは座る。 すずはやっと笑顔になって彼の前に座り込み、ヘアゴムを手渡した。 ユーリはそのついでに時計に目をやり、今が十時半だと知る。 十時半。思っていたよりも長いこと一人でいたことに驚き、彼女の髪に櫛を通した。 さらさらした、子供特有の細い髪。 石鹸の優しい香がする。 「ユーリ、意地悪だよ。どこにいたの?」 「窓辺」 「窓辺? あ、タバコ吸ってたんでしょ。匂いするし」 バレた、と言って、ユーリは苦笑する。 髪を二つに分けて、いつものように耳の下で結う。 「はい、完了。顔洗って来い。E地区はもうちょいだぜ?」 「ほんと? 分かった! 急いで準備する!」 すずは満面の笑顔で立ち上がり、パタパタと洗面所に向かった。 ユーリはやれやれと肩を竦め、すずのワンピースを小さくまとめて部屋にあった袋に入れてやる。 すずはすぐに帰って来て、彼はつい今出来た彼女の荷物を渡してやった。 「ありがとう、ユーリ」 「ああ。よし、行くか」 「うん!」
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