蝶は花を求めて

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左目だけでちらりとその様子を伺い、胸のうちで呟く。 あの成長しないヒヨコの正体は、研究所で必要なくなった実験台のヒヨコだ。 いろんな薬を投与されている為、毛には人間の健康に影響する毒が含まれている。 成長しないのは事実だが、それを知っている人間からするとヤバイものに間違いない。 (なんか旨そうなもんねぇかな。腹減ってきた) 大通りには様々な店が並んでいるが、美味しそうなものが見つからない。 みな着色料や保存料に漬け込まれたものばかりだ。 青年はキセルを手に取りふぅ、と息を吐いて、そこで止まった。 なにか聞こえる。 (……悲鳴?) 誰も気付いていないようだが、確かに聞こえる。 少女、しかも相当幼いようだ。 青年は声が聞こえて来る路地に目を向け、進もうとして止めた。 一瞬、脳裏に惨殺された少女の画が浮かぶ。 「…………」 頭の中に鈍痛が走ったが、彼は一度それを振り払うように頭を振ると、自分を落ち着かせるように一息ついた。 そして辺りを見渡してキセルをしまうと、再び誰も悲鳴に気付いていないことを確かめる。
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