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店は寂れているが、置いてある花は美しく咲き誇っていた。
「お花買うの?」
「気に入ったのがあれば、な」
ユーリは言って、小さい店の中を見渡す。
そして、求めていたものを見つけた。
みずみずしく、大きな花を咲かせた真っ白なユリ。
「ゆり? 綺麗だね。それ買うの?」
「ああ」
その会話が聞こえたのか、店の奥から一人の老婆が現れた。
「珍しいねぇ。今時花を買うなんて」
「ちょっとな。あのユリ一輪欲しいんだが」
「あいあい、これだね。見事だろう? ま、自力で咲いたもんじゃないがね」
老婆は言いながらユーリの言ったユリを一輪取り、茎に布を巻いてセロファンで包んだ。
「自力で咲ける花なんて、もうどこにもねぇだろ」
「そうさ。みんなライラックの薬漬けにされたものばかりだよ。ああ、でも……」
セロファンをテープで止めながら、老婆はなにか思い出したかのようにユリから手を放し、ユリ達が生けられている花瓶を覗き込んだ。
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