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「このユリは違うね。薬を与えておらんわい。……珍しいねぇ。ライラックの薬なしでこんな大きく咲くなんて……」
どこか嬉しそうに言って、老婆は値段を言った。
ユーリは銭を渡し、ユリを受け取る。
そして店を出た。
雨足が強くなっている。
「化学物質吸ってねぇ花か。レアもんだな。良いの買えたぜ」
「うん。ねぇ、お花って自分で咲けないの?」
「今はな。というか、ライラックの薬吸って咲いた花の生命力が強すぎて、自然の花は淘汰されちまったんだよ」
すずは淘汰の意味が分からず彼に問い、答えを聞いて納得した。
「ライラックはな、全ての生き物の生態系を簡単に壊しちまうんだ。そんなのが国のトップなんだぜ? 笑えるよな」
ユーリは皮肉な笑みを浮かべ、ユリを見下ろした。
本当に綺麗だ。
香りも良い。
花屋から少し歩いて道を抜けると、視野が広くなった。
灰色の四角い石が並んでいる。
「なに? ここ」
「墓」
短く答え、ユーリは行ってしまう。
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