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すずは初めて見る異様な光景に戸惑ったが、一人になる方が怖くて彼について行った。
墓地には烏がたくさんいて、痩せた猫達が二人を睨む。
すずは怖くて、俯きながら小さい歩幅で歩いて行った。
広い敷地。
心なしか空が暗く感じる。
ユーリはそんなことを全く気にせず、この墓地の中で一番大きな墓の前に腰を降ろした。
元々みな小柄な造りだが、明らかに他とは違う立派なものだ。
すずはしゃがみ込んだユーリを見下ろし、そして墓と彼、交互に目をやる。
ユーリは手にあるユリを供え、小さく言った。
「……ただいま、姫」
「?」
姫。お姫様? と思いながら、暗い空の下、灰色の墓標に映える白いユリを見つめた。
雨に濡れて、ゆらゆらと揺れている。
「ごめんな、またこんなに間が空いちまって。……ごめんな」
悲しい声音。
ユーリの声は雨音の中から僅かに聞こえてくる。
彼は深くため息をつくと、自分を見下ろしているすずを見上げた。
「悪ぃな。つまんねぇだろ。もう少し待っててくれるか?」
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